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素材は、何を伝えるのか。| デザインの前に考えたいこと#09

お店に入ったとき、私たちは何から、その空間の印象を感じ取っているのでしょうか。

照明の明るさや、家具の配置、天井の高さ。

そして、床や壁、家具などに使われている素材も、そのひとつです。

木の温もりを感じる空間。

石やコンクリートの落ち着いた空間。

金属やガラスを使った、少し緊張感のある空間。

同じ広さ、同じ間取りであっても、使う素材によって、お店の印象は大きく変わります。

素材は、お店の雰囲気をつくるだけでなく、そのお店が大切にしている考え方や、

ブランドの世界観を伝える役割も持っています。

では、どのような素材を選べば、良いお店になるのでしょうか。

今回は、素材の選び方と、その使い方について考えてみたいと思います。

 

 

 

素材は、お店の個性をつくる。

店舗のデザインを考えるとき、木を使いたい、コンクリートの壁にしたい、

石や金属を取り入れたい、といったご要望をいただくことがあります。

好きな素材や、実現したい雰囲気があることは、店舗づくりの大切な出発点です。

ただ、同じ木でも、樹種や色、木目、表面の仕上げによって、感じられる印象は異なります。

明るい木材を使えば、軽やかで親しみやすい空間になるかもしれません。

深い色の木材を使えば、落ち着きや重厚感を感じる空間になることもあります。

また、木を大きな面積で使うのか、家具の一部分に使うのかによっても、印象は変わります。

つまり、素材の種類だけで、空間の雰囲気が決まるわけではありません。

その素材のどのような表情を生かし、どこに、どのくらい使うのか。

そうした選択の積み重ねによって、お店の個性がつくられていくのだと思います。

 

 

 

素材は、ブランドの考え方を伝える。

お店には、それぞれ大切にしている価値観があります。

長く使い続けられるものを大切にするお店。

自然や手仕事を大切にするお店。

新しさや先進性を大切にするお店。

こうした価値観は、商品やサービス、ロゴや言葉だけでなく、

空間を通して伝えることもできるのではないでしょうか。

例えば、長く使うことを大切にするお店なら、

時間とともに表情が変わる木材や金属が似合うかもしれません。

職人の手仕事を大切にするお店なら、左官仕上げのように、

人の手による表情を感じられる素材を取り入れることも考えられます。

一方で、精密さや清潔感を大切にするお店なら、

均一で端正な素材がふさわしい場合もあります。

どれが正解というわけではありません。

大切なのは、流行している素材や高価な素材を選ぶことではなく、

そのお店が大切にしている考え方と、

素材の持つ印象がつながっていることだと思います。

素材選びは、単に内装の色や仕上げを決めることではなく、

ブランドをどのように表現するかを考えることでもあるのです。

 

 

 

良い食材を集めるだけでは、良い料理にならない。

素材選びは、店舗づくりにおいて、とても大切です。

しかし、良い素材を選べば、それだけで良い空間になるのでしょうか。

少し、料理に例えて考えてみたいと思います。

料理をつくるとき、食材選びはとても大切です。

どのような食材を選ぶかによって、つくる料理の方向性は変わります。

しかし、どれだけ高級で新鮮な食材を揃えても、調理の仕方が適切でなければ、

その魅力を十分に引き出すことはできません。

反対に、特別に高価ではない食材でも、調理方法や組み合わせによって、

素晴らしい一皿になることがあります。

空間づくりも、これに似ているのではないでしょうか。

美しい大理石や、表情豊かな木材、丁寧に仕上げられた金属。

それぞれの素材に魅力があっても、ただ壁や床に貼るだけでは、

上質な空間になるとは限りません。

どのくらいの面積で使うのか。どのような寸法にするのか。

ほかの素材とどう組み合わせるのか。

そして、素材と素材が接する部分を、どのように納めるのか。

こうした設計によって、同じ素材でも空間の印象は大きく変わります。

良い食材を集めるだけでは、良い料理にならないように。

良い素材を集めるだけでは、良い空間にはならない。

素材を選ぶことと、その素材をどう使うかを考えること。

私たちは、そのどちらも同じくらい大切だと考えています。

 

 

 

高級な素材と、上質な空間は違う。

高価な素材を使っていることが伝わる空間と、上質だと感じられる空間は、

必ずしも同じではありません。

例えば、美しい大理石を壁一面に貼ったとしても、

それだけで美しい空間になるとは限りません。

石の模様をどのように見せるのか。目地をどこに設けるのか。

壁と床、天井が接する部分を、どのように納めるのか。

こうした細かな部分まで考えることで、素材の魅力が引き出されていきます。

特に、高級な素材ほど、その存在感が強くなることがあります。

だからこそ、素材そのものの美しさに頼るのではなく、

空間全体との関係を丁寧に考えることが重要なのだと思います。

料理でも、食材の良さを生かすために、あえて手を加えすぎないことがあります。

空間も同じように、素材の魅力を引き出すために、余計な装飾を加えず、

納まりをできるだけシンプルにすることがあります。

素材を目立たせることだけが、素材を生かす方法ではありません。

周囲との関係を整えることで、素材が空間の中に自然となじみ、

その魅力がより引き立つこともあります。

また、特別に高価ではない素材でも、使い方や納まりを丁寧に考えることで、

上質な空間をつくることはできます。

素材そのものの価値を、空間全体の価値へと変えていく。

そのためにこそ、素材の使い方や納まりを考えることが重要なのだと思います。

 

 

 

素材は、見るだけのものではない。

素材を選ぶとき、写真やカタログで色や模様を確認することはできます。

しかし、実際の空間では、素材を目で見るだけではありません。

カウンターに手を置く。椅子に座る。床の上を歩く。扉の取っ手に触れる。

そうした何気ない行為の中でも、私たちは素材を感じています。

例えば、木のカウンターと石のカウンターでは、手を置いたときの温度や感触が違います。

柔らかな布張りの椅子と、硬い木の椅子では、座ったときの印象が違います。

また、素材の見え方は、光によっても変化します。

自然光の下では美しく見えた素材が、店舗の照明の下では違う色に見えることもあります。

そのため、できるだけ実物を確認し、

実際に使う環境を想像しながら選ぶことが大切だと考えています。

素材の魅力は、写真に写る部分だけではありません。

お店で過ごす時間の中に、目には見えにくい心地よさとして表れることもあるのだと思います。

 

 

素材には、それぞれの時間がある。

素材について考えていると、新しいものが必ずしも美しいとは限らないと感じることがあります。

古い木の家具。使い込まれた革の椅子。表面に小さな傷が残る金属。長い時間を経た建物の壁。

新品のときにはなかった表情が、時間とともに生まれていることがあります。

もちろん、傷や汚れがすべて魅力になるわけではありません。

清潔さが求められる場所もあれば、傷が営業上の問題になる場所もあります。

それでも、時間の経過を単なる劣化として捉えるのではなく、

素材の魅力のひとつとして考えることはできないでしょうか。

お店は、完成したあとも、何年、何十年と使われていく場所です。

だからこそ、完成時の美しさだけでなく、時間が経ったときに、

どのような表情になってほしいのかという視点も持っていたいと思います。

 

 

素材を選ぶことは、お店を考えること。

店舗の素材選びに、ひとつの正解があるわけではありません。

高価な素材を使うことが正解でも、自然素材を使うことが正解でもありません。

また、どれだけ魅力的な素材を選んだとしても、

その使い方や納まりによって、空間の印象は変わります。

どのようなお店をつくりたいのか。

どのような人に訪れてほしいのか。

そこで、どのような時間を過ごしてほしいのか。

そして、そのお店が長く使われていく中で、どのような風景になってほしいのか。

そうしたことを考えていくと、少しずつ、

その場所にふさわしい素材や使い方が見えてくるのではないでしょうか。

私たちも、最初からすべての答えを持っているわけではありません。

お店をつくる人の話を聞き、素材に触れ、組み合わせや納まりを検討しながら、

その場所に合うものを探していきます。

素材は、空間を美しく見せるためだけのものではありません。

お店の考え方を伝え、訪れた人の感覚に働きかけ、

そこで過ごす時間をつくるものでもあります。

そして、その素材の魅力を空間の価値へと変えるためには、

使い方や納まりまで丁寧に考える必要があります。

どんな素材を使うのか。そして、その素材をどう生かすのか。

その両方を、お店をつくる人と一緒に考えていきたいと思います。

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