お店で商品を選ぶとき、私たちは何を見ているのでしょうか。
商品の色や形、素材、価格。
もちろん、それらは商品を選ぶうえで大切な要素です。
しかし、同じ商品であっても、どのような場所に置かれ、
どのように見せられているかによって、受け取る印象は変わるのではないでしょうか。
たくさんの商品が並ぶ棚の中で見つけるもの。一つだけ、静かに展示されているもの。
その商品に出会うまでの時間や、向き合うときの気持ちは、少し違うように思います。
H3 VINTAGE GINZAの設計では、商品をどのように並べるかだけでなく、
お客様が商品と出会い、選ぶまでの時間についても考えました。

一点ものと、どう出会うのか。
H3 VINTAGE GINZAで扱うのは、エルメスのヴィンテージアイテムです。
ヴィンテージの商品には、新品の商品とは少し違った魅力があります。
同じモデルであっても、製造された年代や色、素材、状態などによって、
それぞれに個性があります。
そして、まったく同じものに再び出会えるとは限りません。
そうした一点ものを扱うお店では、商品の数を多く見せることだけが、
魅力的な売り場をつくる方法ではないと考えました。
一つひとつの商品が持つ表情を、きちんと見せること。
お客様が、それぞれの商品に自然と目を向けられること。
そのために、商品の置き方や、商品同士の距離について検討しました。

商品のための場所をつくる。
店舗の中には、壁面の展示スペースや、段差を設けた什器など、
異なる見せ方ができる場所を計画しています。
商品を同じ高さに整然と並べるだけでなく、
置く高さや奥行きに変化をつけることで、
一つひとつの商品の見え方が変わります。
また、商品を展示する場所と、その周囲の余白との関係も大切にしました。
例えば、一つの商品を少し離れた場所に置くことで、
自然と視線が集まることがあります。
周囲に余白をつくることで、商品の形や色がよりはっきりと
感じられることもあります。
ただし、すべての商品を特別な展示にしてしまうと、
空間全体が落ち着かなくなるかもしれません。
どこに視線を集め、どこを静かな背景にするのか。
商品を見せる場所と、空間全体とのバランスを考えながら、
展示の方法を検討していきました。
歩くことで、見え方が変わる。
H3 VINTAGE GINZAには、奥へと続く一本の長い廊下があります。
この廊下は、以前の記事でも紹介したように、
「時間」を空間として表現するために計画したものです。
一方で、お客様が店内を歩きながら、さまざまな商品と出会う場所でもあります。
入口から奥へと進む中で、壁面の展示や什器が少しずつ見えてきます。
歩く位置や視線の向きによって、目に入る商品も変わります。
最初からすべての商品を見渡せる空間とは違い、歩きながら新しいものを発見していく。
そんな体験をつくれないかと考えました。
商品を探すことだけを目的とした移動ではなく、
店内を歩く時間そのものが、商品との出会いにつながっていく。
そのような空間を目指しています。
選ぶ時間に、余白をつくる。
ヴィンテージアイテムを選ぶとき、すぐに購入を決める人もいれば、
じっくりと比較しながら考える人もいると思います。
商品の状態を確かめたり、色や素材を見比べたり。
ときには、その商品がつくられた時代や、
これまでに重ねてきた時間に思いを巡らせることもあるかもしれません。
そうした時間を考えると、商品を効率よく並べることだけが、
店舗設計の目的ではないように思います。
商品を見つける場所。立ち止まって眺める場所。
手に取り、細部を確かめる場所。
それぞれの場面にふさわしい空間のつくり方があるのではないでしょうか。
もちろん、商品を選ぶ時間の長さや過ごし方は、人によって違います。
だからこそ、決められた順序で商品を見せるのではなく、
お客様が自分のペースで商品と向き合えることも大切にしたいと考えました。

空間は、商品を引き立てるためにある。
店舗のデザインでは、素材や照明、什器の形など、さまざまなことを検討します。
しかし、空間そのものが目立てば良いというわけではありません。
H3 VINTAGE GINZAで主役になるのは、そこに並ぶヴィンテージアイテムです。
そして、その商品を選ぶお客様の時間も、同じくらい大切なものだと思います。
空間のデザインが強く主張しすぎると、
商品そのものの魅力が伝わりにくくなることもあります。
反対に、何も考えずに商品を並べるだけでは、
一点ものが持つ特別な魅力を十分に引き出せないかもしれません。
商品と空間の、ちょうど良い関係はどこにあるのでしょうか。
私たちは、商品を引き立てながらも、空間の中を歩くことや、
商品を見つけることが楽しくなるような、そのバランスを探していきました。
商品を選ぶ時間まで、デザインする。
オンラインショップでは、たくさんの商品を画面上で比較することができます。
色や形、価格などの情報を確認しながら、効率よく商品を探すことができるのは、
オンラインの大きな魅力です。
一方で、実店舗には、実際に商品を見て、空間の中を歩きながら、
思いがけないものと出会える楽しさがあります。
H3 VINTAGE GINZAでは、その実店舗ならではの価値を、
空間の中につくりたいと考えました。
商品をどこに置くのか。
どのような順序で見えてくるのか。
どこで立ち止まり、どのように商品と向き合うのか。
そうした小さな体験の積み重ねが、
お店で過ごす時間をつくっていくのだと思います。
ヴィンテージアイテムには、それぞれが重ねてきた時間があります。
そして、お客様がその商品と出会い、選ぶ時間もまた、
その先へと続く時間の一部になるのかもしれません。
商品を美しく見せるだけでなく、商品と出会い、選ぶ時間まで考えること。
それも、私たちが考える店舗デザインのひとつです。