店舗デザインの前に考えたいこと|06
お店に入ったとき、私たちはどのように行動しているのでしょうか。
入口からまっすぐ目的の商品へ向かう人もいれば、店内をゆっくりと見て回る人もいます。
気になるものを見つけて立ち止まったり、少し奥まで進んでみたり。
何も買うつもりがなかったのに、思いがけない商品と出会うこともあります。
こうした店内での人の動きは、店舗デザインを考えるうえで大切な要素のひとつです。
今回は、人が店の中をどのように歩き、何を見て、どこで立ち止まるのか。
店舗の動線について考えてみたいと思います。

動線は、ただの通路ではない。
店舗の設計では、「動線」という言葉をよく使います。
入口から売場へ、売場からレジへ。スタッフが厨房と客席を行き来する経路や、商品を補充するための経路も動線のひとつです。
もちろん、移動しやすいことは大切です。
通路が狭すぎたり、人の流れが交差しすぎたりすると、店内で過ごすこと自体がストレスになってしまいます。
しかし、通路を広くして、目的の場所まで最短距離で移動できるようにすることだけが、良い動線計画なのでしょうか。
例えば、雑貨店に入ったとき。
入口からレジまで一直線に進めるお店と、さまざまな商品を眺めながら、自然と奥へ進んでいくお店。
どちらが良いかは、そのお店が提供したい体験によって変わります。
動線とは、人を効率よく移動させるためだけのものではありません。
店内で何を見て、どのような順序で体験するのか。その流れをつくるものでもあるのです。
人は、目に入ったものに引き寄せられる。
お店の中で、人は必ずしも設計者が想定した通りに歩くわけではありません。
入口から見える商品や、奥にある明るい場所。少し気になるディスプレイや、ほかとは違う素材の壁。
そうしたものに自然と視線が向き、興味を持った方向へ足が進みます。
つまり、人の動きを考えるときには、床の上に通路を描くだけでなく、
その場所から何が見えるのかを考える必要があります。
入口に立ったとき、店内のすべてが見渡せるのか。
それとも、奥に何かがありそうだと感じるのか。
曲がった先に新しい景色が現れるのか。
同じ面積のお店でも、視線の抜け方や商品の配置によって、歩き方や空間の感じ方は大きく変わります。
すべてを一度に見せることが良い場合もあれば、少しずつ見せることで興味が深まる場合もあります。
大切なのは、そのお店にとって、どのような見せ方がふさわしいかを考えることです。

立ち止まる場所をつくる。
動線を考えるとき、歩くことと同じくらい大切なのが、立ち止まることです。
商品を手に取る。
ショーケースをのぞき込む。
壁に飾られたものを眺める。
誰かと話をする。
お店での体験は、移動している時間だけでなく、こうした立ち止まる時間によっても生まれます。
例えば、通路の途中に魅力的な商品があっても、ほかのお客様の通行が気になれば、ゆっくり見ることはできません。
反対に、少し余白のある場所に商品が置かれていれば、自然と足を止め、
時間をかけて向き合うことができます。
店舗面積には限りがあります。
売場を広く取りたい。できるだけ多くの商品を並べたい。席数を増やしたい。
そう考えることは当然です。
ただ、すべての場所を商品や客席で埋めてしまうと、人が立ち止まったり、
ゆっくりと過ごしたりする余裕がなくなることもあります。
何も置かない場所が、お店の体験を豊かにすることもある。
店舗の余白には、そんな役割があると思います。
回遊する楽しさと、迷わない安心感。
店内を歩き回ること自体が楽しいお店があります。
書店や雑貨店、セレクトショップなどでは、目的の商品を探す途中で、思いがけないものに出会う楽しさがあります。
一方で、目的がはっきりしているお店では、欲しいものや必要なサービスに迷わずたどり着けることが大切です。
飲食店であれば、入口から席までのわかりやすさや、トイレの場所、スタッフとの距離感なども、居心地に関わってきます。
回遊性を高めれば、必ず良いお店になるわけではありません。
かといって、すべてを最短距離で結ぶことが正解でもありません。
例えば、ゆっくり商品を選んでほしいお店なら、歩く途中にさまざまな発見があることが魅力になります。
短時間で買い物を済ませたいお店なら、必要なものがすぐに見つかることが価値になります。
そのお店に来る人が、どのような時間を過ごしたいのか。
動線計画は、そこから考える必要があります。

お客様の動線と、スタッフの動線。
店舗には、お客様の動線だけでなく、スタッフの動線もあります。
飲食店であれば、料理を運ぶ、食器を下げる、会計をする。
物販店であれば、商品を補充する、在庫を取りに行く、接客する。
スタッフが無理なく働ける環境は、安定したサービスを提供するために欠かせません。
ただし、スタッフにとって効率の良い配置が、必ずしもお客様にとって心地よい配置になるとは限りません。
例えば、作業の効率を優先して収納や備品を客席の近くに集めると、
スタッフの移動距離は短くなっても、お客様の視界に作業風景が入りすぎることがあります。
反対に、作業する姿そのものが、お店の魅力になる場合もあります。
目の前で料理が仕上がっていく様子や、職人が商品を丁寧に扱う姿。
そうした風景を見せることで、お店で過ごす時間がより豊かになることもあります。
大切なのは、スタッフの動きを隠すか見せるかではなく、
どのようなサービスを、どのように体験してほしいのかを考えることです。

歩くことで、空間の印象は変わっていく。
建築や店舗の空間は、一枚の写真のように、ひとつの場所からだけ見られるものではありません。
入口に立ったとき。少し奥へ進んだとき。振り返ったとき。席に座ったとき。
同じ空間でも、見る位置や身体の向きが変わることで、まったく違う印象を受けることがあります。
例えば、入口からは見えなかった庭が、奥へ進むと現れる。
低い天井の通路を抜けると、開放的な空間が広がる。
少し歩くと、窓から街の景色が見えてくる。
こうした変化は、空間を歩くことで初めて体験できるものです。
店舗の設計では、平面図の上で人の流れを考えるだけでなく、
実際にその場所を歩くように想像しながら、空間を検討していきます。
どこから入り、何が見えて、どこで足を止めるのか。
その積み重ねが、お店全体の印象をつくっていきます。
人の動きから、お店を考える。
店舗を設計するとき、私たちは家具や商品、客席の配置を考えます。
しかし、本当に考えたいのは、その間で人がどのように過ごすのかということです。
どこを歩くのか。何に興味を持つのか。
どこで立ち止まり、どれくらいの時間を過ごすのか。
そして、お店を出るときに、どのような印象が残るのか。
動線計画とは、単に人が通る道を決めることではなく、お店で過ごす時間の流れを考えることなのだと思います。
商品やサービスの魅力が、自然と伝わるように。
訪れた人が、自分のペースで心地よく過ごせるように。
人がどう歩くのかを考えることは、そのお店でどんな体験が生まれるのかを考えること。
私たちは、そんな視点から店舗の空間を設計していきたいと考えています。