新しいものほど、価値があるのでしょうか。
新しくつくられた建物や、傷のない家具、まだ誰も使っていない商品。
新しいものには、その状態だからこそ感じられる美しさがあります。
一方で、長い時間を経たものにも、新しいものとは違った魅力があります。
使い込まれた革の質感や、少しずつ色が変化した金属。長い年月を過ごしてきた建物の表情。
時間が経過したからこそ生まれる美しさもあるのではないでしょうか。
H3 VINTAGE GINZAは、エルメスのヴィンテージアイテムを専門に扱う店舗です。
ヴィンテージアイテムの魅力は、単に古いということではありません。
つくられた時代や、使われてきた時間。そのものが持つ背景も、価値のひとつになっています。
私たちは、そうした価値観を、店舗の空間にも取り入れたいと考えました。

建物が重ねてきた時間。
新しい店舗をつくるとき、既存の壁や天井を新しい仕上げ材で覆い、
すべてをきれいに整える方法があります。
もちろん、それもひとつの設計の考え方です。
しかし、既存の建物には、これまで積み重ねられてきた時間があります。
コンクリートの躯体や、長い年月の中で生まれた表面の質感。
それらには、新しい材料だけでは簡単につくることのできない表情があります。
H3 VINTAGE GINZAでは、既存の建物の躯体をあえて見せる部分を設けました。
すべてを新しい仕上げ材で覆い隠すのではなく、建物がもともと持っていた表情を、
空間の一部として取り入れています。
既存のものを残すことは、単に工事を減らすこととは少し違います。
何を残し、何を新しくつくるのか。
その関係を考えることも、設計の大切な仕事だと思います。
新しくつくるものだけで空間を完成させるのではなく、すでにそこにあるものの
価値を見つけること。
それが、この店舗で大切にした考え方のひとつです。

これから時間を重ねる素材。
建物の躯体が、これまでの時間を感じさせるものだとすれば、新しく取り入れる素材には、
これから重ねていく時間があります。
木や金属など、素材によっては、光や空気、人の手に触れることで、少しずつ色や質感が変わっていきます。
完成したときの状態が、そのまま続くわけではありません。
例えば、木材は使われる環境によって色合いが変化し、金属には少しずつ異なる表情が生まれることがあります。
その変化を、単に古くなったと捉えるのではなく、時間を重ねた結果として受け入れる。
そんな素材の使い方もあるのではないでしょうか。
H3 VINTAGE GINZAでは、経年変化する素材を空間の中に取り入れました。
完成した瞬間だけでなく、これからお店が営業を続けていく中で、素材の表情も少しずつ変わっていくことを
想定しています。
もちろん、すべての変化が美しいわけではありません。
傷や汚れ、劣化への対応は、素材の特性や使う場所に応じて考える必要があります。
そのうえで、長く使うことで魅力が増していく素材を選ぶことには、このお店らしい意味があると考えました。
異なる時間が、ひとつの空間にある。
既存の建物が持つ、過去の時間。
新しく取り入れた素材が、これから重ねていく時間。
そして、店内に並ぶヴィンテージアイテムが、それぞれに持っている時間。
H3 VINTAGE GINZAには、異なる時間を持つものが共存しています。
これまでの記事では、過去から現在、そして未来へと続いていく時間を、
一本の長い廊下によって表現したことを紹介しました。
その考え方は、空間の構成だけではなく、素材の選び方にもつながっています。
新しいものと古いものを、単に対比させるのではありません。
それぞれが持つ時間を尊重しながら、ひとつの空間として成立させること。
例えば、既存の躯体の粗い表情と、新しく設けた什器の整えられた形。
その違いがあることで、それぞれの素材の特徴が、より感じられることもあります。
すべてを同じ質感に揃えるのではなく、異なるもの同士の関係を考える。
そこに、この空間ならではの魅力が生まれるのではないかと思います。

完成した瞬間が、完成形とは限らない。
私たち設計者にとって、工事が終わり、空間が完成することは、ひとつの大きな区切りです。
図面で考えてきたものが実際の形となり、素材や光、空間の広がりを確認できる瞬間でもあります。
しかし、お店にとっては、そこから新しい時間が始まります。
商品が並び、スタッフが働き、お客様が訪れる。
季節によってディスプレイが変わり、日々の営業の中で、少しずつお店の風景がつくられていきます。
新しく取り入れた素材も、その時間の中で表情を変えていくかもしれません。
完成したときの空間は、設計者が考えたひとつの姿です。
けれども、その場所が本当にお店らしい空間になっていくのは、使われ始めてからなのだと思います。
設計によって、その先のすべてを決めることはできません。
だからこそ、変化を受け入れながら、長く使い続けられる空間を考えることが大切なのではないでしょうか。

時間とともに、価値を重ねていく。
H3 VINTAGE GINZAの設計では、ヴィンテージアイテムが持つ価値を、
空間の中でどのように表現できるのかを考えてきました。
奥へと続く一本の廊下。
一点ものと向き合うための展示空間。
建物がこれまで重ねてきた時間を感じさせる躯体。
そして、これから少しずつ表情を変えていく素材。
それぞれは異なる設計の要素ですが、根底には共通する考え方があります。
それは、時間の経過を、価値が失われていくこととしてだけ捉えないということです。
古いものを大切にすること。
新しいものが、これから時間を重ねていくこと。
そして、人がその場所で過ごすことで、新しい風景が生まれていくこと。
H3 VINTAGE GINZAが、完成した瞬間だけでなく、これから時間を重ねる中で、
さらに魅力を深めていく場所になればと思います。
新しいものと、古いもの。
過去と、現在と、未来。
その異なる時間が、ひとつの空間の中でつながっていく。
そんな場所を目指して、H3 VINTAGE GINZAを設計しました。