人通りの多さだけでは決まらない、「良い立地」について

店舗を出店するとき、多くの人が悩むことの一つが「場所」だと思います。
駅から近い方がいいのか。
人通りは多い方がいいのか。
1階の路面店がいいのか。
家賃はいくらまでかけるべきなのか。
もちろん、どれも大切なことです。
けれど店舗を設計していると、
単純に「人通りが多い場所=良い立地」ではないと感じることがあります。
大切なのは、
「誰に来てほしいのか」と「その場所」が合っていること。
今回は、店舗をつくるときの「場所」について考えてみたいと思います。
良い立地とは、人通りの多い場所なのか
駅前や大通り沿いには、たくさんの人が行き交います。
多くの人の目に触れるという意味では、とても魅力的な場所です。
一方で、人通りが多ければ、どんな店舗でもうまくいくわけではありません。
例えば、仕事の帰りに立ち寄る店と、休日に時間をかけて訪れる店。
毎日使う店と、年に数回訪れる店。
数百円の商品を扱う店と、時間をかけて選ぶ高価な商品を扱う店。
それぞれ、必要とされる場所は違います。
大切なのは「何人の人が通っているか」だけではなく、
「どんな人が、どんな目的で、その場所にいるのか」
を見ることだと思います。
「近いこと」だけが価値ではない
店舗を探していると、どうしても駅からの距離が気になります。
駅徒歩1分と10分なら、1分の方が良い。
そう考えるのは自然なことです。
しかし、少し遠くても人が訪れる店はたくさんあります。
むしろ、わざわざ時間をかけて訪れた場所だからこそ、そこで過ごす時間を大切にしたくなることもあります。
路地を歩く。
街の風景を見る。
店を探す。
そして、目的の場所にたどり着く。
店舗での体験は、入口の扉を開けた瞬間から始まるとは限りません。
そこへ向かう時間も含めて、店の体験になる。
そんな場所のつくり方もあると思います。
ただし、「遠くても来てくれる」には理由が必要
もちろん、駅から遠い場所に店をつくれば、
それだけで特別な店になるわけではありません。
距離があるほど、
「そこまで行きたいと思える理由」
が必要になります。
そこでしか買えない商品がある。
その人に会いたい。
その場所でしかできない体験がある。
その店の空気が好き。
店だけではなく、その街を歩くことも楽しい。
そうした理由が積み重なることで、距離は単なる不便ではなくなっていきます。
逆に、どこでも同じように得られる商品やサービスであれば、
便利な場所にあることの重要性は高くなります。
だからこそ、立地を考えることと、
「自分の店にしかない価値は何なのか」を考えることは切り離せません。
家賃の高い場所が、良い場所とは限らない

人通りが多く、駅に近く、視認性の高い場所は、
当然家賃も高くなる傾向があります。
その家賃を払い続けるためには、それに見合った売上が必要です。
一方で、少し駅から離れたり、2階や地下に入ったりすることで、
家賃を抑えられることもあります。
そこで生まれた余裕を、
商品に使うのか。
スタッフに使うのか。
空間に使うのか。
サービスに使うのか。
店舗をつくるときには、
「一番条件の良い物件を借りること」ではなく、
「限られたお金をどこに使うのか」という視点も大切です。
立地もまた、店舗全体の計画の一部なのだと思います。
その街に、その店は似合っているか
私たちがもう一つ大切にしたいのが、街との相性です。
街には、それぞれ違った空気があります。
住宅街。
オフィス街。
昔から続く商店街。
観光客が集まる場所。
新しい店が増えているエリア。
同じ店舗をそのまま別の街へ持っていっても、
同じように感じられるとは限りません。
そこに暮らす人。
歩く人。
周囲の建物。
街のスケール。
時間によって変化する人の流れ。
実際にその場所を歩いてみると、
地図や物件資料だけでは分からないことがたくさんあります。
だから私たちは、
「この店が、この街にあることに意味があるか」
ということも考えたいと思っています。
店舗は、街から影響を受け、街にも影響を与える

店が街から受け取るものだけではありません。
一つの店舗ができることで、それまで通り過ぎていた人が立ち止まる。
店の前で人が待つ。
中で人が話している様子が外から見える。
夜になると店の明かりが通りに漏れる。
そうした小さな変化によって、街の風景も少しずつ変わっていきます。
前回の記事でも書いたように、店舗は単独で存在しているものではありません。
店の風景は、街の風景の一部になります。
だから「どこに店をつくるか」という問いは、単なる不動産選びではなく、
「どんな街の中で、どんな店を育てていきたいのか」
という問いでもあると思います。
物件を見る前に、考えてみてほしいこと
店舗を探し始めると、
駅から何分。
何坪。
家賃はいくら。
1階か2階か。
そうした数字に目が向きます。
もちろん、数字はとても大切です。
でも、その前に一度考えてみてほしいことがあります。
誰に来てほしいのか。
その人は、どんな時間をかけて店を訪れるのか。
なぜ、その人はわざわざこの店を選ぶのか。
そして、この店はどんな街にあると、その魅力をより発揮できるのか。
この部分が見えてくると、物件を見る目も少し変わってきます。
駅から少し離れていることが、必ずしも欠点ではなくなるかもしれません。
小さな物件だからこそできることが見えてくるかもしれません。
路地の奥だからこそ生まれる体験もあるかもしれません。
良い立地とは、条件の良い場所ではなく、
「その店にとって、相応しい場所」
なのだと思います。
店舗の場所を考えることは、
これからその店が、誰と、どんな時間を積み重ねていくのかを考えること。
物件を決める前に、まずはそのことから考えてみてほしいと思います。