音楽には「不協和音」と呼ばれるものがあります。
複数の音がぶつかることで生まれる、濁りや不安定な響き。
意図せず鳴れば、人はそこに違和感や不快感を覚えます。
建築にも、それに似たものがあると思っています。
建築は、さまざまな部材を組み合わせてつくられます。
壁と天井の取り合い。
床材の切り替わり。
建具の枠。
巾木や見切り材。
設備機器や点検口。
工事をする以上、どうしても線や段差は生まれます。
けれど、それぞれを個別に納めていけば、空間の中には意図しない線が増えていく。
高さが少しずれた線。
途中で途切れる線。
意味なく切り替わる素材。
一つひとつは小さなものでも、それらが積み重なると、理由は分からないけれど、
どこか落ち着かない空間になります。
それは音楽の中で、意図せず音がぶつかっている状態に近いのかもしれません。
だから設計では、こうした「ノイズ」をできるだけ取り除いていきます。
線を揃え、段差をなくし、素材の切り替わりを整理する。
空間の中にある不協和音を、一つずつ消していくような作業です。

では、ノイズをすべて取り除けば、心地よい空間になるのでしょうか。
音楽には、すべての音を機械のように正確に並べるのではなく、
あえて少しタイミングをずらすことで生まれる「スウィング」や「グルーヴ」があります。
基準となるリズムがありながら、ほんの少し前に出たり、後ろに溜めたりする。
そのわずかな「ズレ」が、音楽に心地よさや躍動感、人間らしさを与えます。
つまり、音楽にとって大切なのは、すべてのズレをなくすことではない。
意図しないズレをなくし、意図したズレをつくること。
これは、建築にも同じことが言えるように思います。
設計によって不要な線や段差を整理した空間に、あえて少し「ノイズ」を差し込んでみる。
均一ではない木の表情。
左官のムラ。
古い建物に残された柱や梁の傷。
時間とともに動いていく光と影。
風で揺れるカーテン。
植物や家具。
そして、そこで生活する人の気配。
完全には揃わないもの、時間とともに変化するもの、少し曖昧なもの。
そうしたものが加わることで、整えられた空間に温度や奥行きが生まれます。
それは音楽におけるスウィングやグルーヴのような、**「心地よいノイズ」**なのかもしれません。
設計とは、ノイズをなくすことではなく、ノイズを選ぶこと。
意図せず生まれるノイズは消す。
そして、意図して心地よいノイズをつくる。
整えるところは徹底して整える。
その上で、少しだけ外す。
そのわずかな「ズレ」や「揺らぎ」が、空間を心地よくしてくれるのだと思います。