「ターゲット」ではなく、そこで過ごす人を考える
店舗をつくるとき、「ターゲットは誰ですか?」という話をすることがあります。
20代の女性。
30〜40代のファミリー。
近隣に住んでいる人。
仕事帰りの会社員。
もちろん、こうした設定はとても大切です。
商品や価格、場所、サービスを考える上でも、誰に来てもらいたいのかを考える必要があります。
ただ、空間を設計する立場から考えると、
「誰が来るのか」だけでは、少し足りない。
私たちがもう一つ考えたいのは、
「その人が、そこでどんな時間を過ごすのか」ということです。
同じ人でも、過ごし方は違う

例えば、「30代の女性」をターゲットにした店舗があったとします。
一人で静かに商品を見たいのか。
スタッフと話しながら、時間をかけて選びたいのか。
友人と一緒に訪れて、その時間そのものを楽しみたいのか。
子どもを連れて訪れるのか。
仕事帰りに短時間だけ立ち寄るのか。
同じ「30代女性」という言葉でも、そこでの過ごし方はまったく違います。
そして過ごし方が変われば、必要な空間も変わります。
通路の幅。
商品の見せ方。
椅子の位置。
スタッフとの距離。
照明の明るさ。
外から店内がどのくらい見えるのか。
一つひとつのデザインには、そこを使う人の行動が関係しています。
だから私たちは、年齢や性別といった属性だけではなく、
そこで起こる時間を想像すること
が大切だと考えています。
お客さんだけが、店を使う人ではない
そして店舗を使うのは、お客さんだけではありません。
毎日そこで働くスタッフがいます。
数十分だけ滞在するお客さんに対して、スタッフは何時間もその場所で過ごします。
歩く。
商品を運ぶ。
片付ける。
準備する。
接客する。
休憩する。
そうした毎日の小さな行動が積み重なります。
お客さんから見て美しい空間でも、働く人にとって使いにくければ、少しずつ無理が生まれてきます。
逆に、スタッフが自然に動くことができれば、接客にも余裕が生まれ、その店の雰囲気にもつながっていきます。
働く人が心地よいことも、店を訪れる人の体験につながっている。
店舗を考えるときには、表から見える部分だけではなく、そこで働く人の時間も一緒に考える必要があります。
「人」を想像すると、デザインが変わる

例えば、大きなテーブルを一つ置くとします。
図面の上では、ただの大きな家具です。
でも、
一人で商品を見るためのテーブルなのか。
スタッフとお客さんが向かい合うためのテーブルなのか。
何人かで集まって何かをつくるためのテーブルなのか。
その周りで自然に会話が生まれてほしいのか。
その目的によって、同じテーブルでも大きさや高さ、置く場所、周囲との距離は変わります。
家具そのものをデザインする前に、
「そこで何が起きてほしいのか」
を考える。
そこから空間を考えていくと、必要な形が少しずつ見えてきます。
想定していなかった使われ方も生まれる
一方で、すべての使い方を設計者が決めてしまう必要もないと思っています。
実際に店がオープンすると、設計しているときには想像していなかった使われ方が生まれることがあります。
人が自然と集まる場所ができたり、
予定していなかったところで会話が始まったり、
家具の使い方が少し変わったり。
設計者がすべての行動を決めるのではなく、
人が自分なりの使い方を見つけられる余白を残しておくこと。
それも店舗を長く使ってもらうためには大切なのだと思います。
「誰に来てほしいか」から、もう一歩先へ

店舗をつくるとき、
誰に来てほしいのかを考えることは、とても大切です。
でも、そこで終わらずに、
その人に、どんな時間を過ごしてほしいのか。
まで考えてみる。
一人で静かに過ごしてほしいのか。
誰かとの会話を楽しんでほしいのか。
新しいものに出会ってほしいのか。
少しだけ日常から離れてほしいのか。
そして、そこで働く人には、どんな時間を過ごしてほしいのか。
そうやって人の行動や時間を想像していくと、
「どんなデザインにするか」より先に、
「どんな場所をつくるべきなのか」
が少しずつ見えてきます。
店舗は、写真の中に存在するものではありません。
人が入り、歩き、座り、話し、働くことで、初めて場所になります。
だから店舗をつくるとき、
「誰のためにつくるのか」だけではなく、
「そこで、どんな時間が生まれてほしいのか」。
そこから空間を考えてみることが、大切なのだと思います。